ルーキーズを現実でやるとこうなる

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ROOKIESという漫画がある。
新任教師が不良高校生に野球の面白さを教えて、甲子園を目指すという物語である。

それを、15年掛けて本当に実現したのが、
山口県は下関国際高校の坂原秀尚監督である。

監督は文武両道を批判し、炎上した。

「他校の監督さんは『楽しい野球』と言うけど、嘘ばっかり。楽しいわけがない」

https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/21136

元記事は削除されていたので、こちらを参照ください。 http://okutta.blog.jp/archives/17889808.html

ROOKIESを現実でやろうとすると、こうなるのだ。

俺はこの監督を100%批判する気にはなれない。

実際、弱い人間は何かひとつに特化した方が強くなれるのではないだろうか。

人間は平等ではない

恵まれた環境に育った人間の言う文武両道が、誰にでもそのまま通用するとは思えない。

日本人はあくまで1億総中流と言われた環境であり、全員が努力次第では人生をひっくり返すことができると信じられていた。

幻想だった。

高度成長期は終わり徐々に誰にでもできる仕事というものが無くなってきた。

単純な作業はITに置換され機械に置換され外国人に置換されてきた。

もはや格差というものは無視できないものである。

欧米は格差が大きさを吸収する術を伝統的に育ててきた。

搾取する側の人間は搾取される側の人間に対して、変に威張ったりしないし、本人の努力不足であると攻撃することもしない。彼らには、搾取される人間があってこそ自分たちの生活があるのだという自覚がある。

一方、日本は失敗した人間に対して、本人の努力が足りなかったと責める。格差社会はすぐそこまで来ているのにも関わらず、本人たちの意識が追いついていない。それは切り離される側、搾取される側の人間の不満を一身に集める事だろう。

そのような重たい時代背景を抱えた下関国際高校である。

彼らは決して勉強ができる人たちではない。
このまま高校生活を自堕落に過ごして卒業すれば、ほぼ間違いなく格差社会の下側にスライドしていく子供達であろう。
そんな少年達に根性と成功体験を培おうとした純粋すぎる監督。
その実績と根性を買われて有名企業に就職できるかもしれない。
そうでなくても一抹の誇りを持って生きていけば、彼らの未来の子供達にプラスの影響を与えることができるかもしれない。
僕はそう感じてしまう面がある。

根性論は害悪になりがち

なぜあの監督がそこまで批判されていたかというと、批判している人間達にとって監督の言っていることは無視できないものであるからだ。

色々な世界を見たい、触れたいと思っている若者にとって、更には情報がモノを言う世界になってしまった現代の日本にとって、外界をシャットアウトし一つの世界に閉じ込める根性論というものはむしろ害悪に近い存在になってしまったのかもしれない。

根性論を利用し労働者を死ぬまで搾取する狡猾な経営者があまりにも増えすぎてしまった。

根性論は、自らを戒めるものではなく、他人に振りかざすものに変容してしまった。

だから、根性論を振りかざす人間からは距離を置き、遠くから法律なり数の力なりで叩きのめすのが正しい戦略となってしまった。

とはいえ根性自体には是非があるだろうし、また選択と集中にも是非があると思われる。この監督の行っていたことはこのケースにおいては正しいと思う。監督は辞める自由は与えていたようだし、ついていけない人間はチームを去っていった。

甲子園の感動消費問題

だがここで一つだけ問題になるのが、結局この監督を擁護するということは、「じゃあお前はこの野球部に入りたいと思うのか」という話になってしまう。

どうだろうか。

知らない地域に住んでいる勉強の苦手な高校生がの監督の下で厳しい鍛練を積むのは良い話だが、
自分は絶対にそういった環境に身を置きたくはないと言うのはもしかしたらダブルスタンダードではないだろうか。

そして、これこそが近年問題になっている「甲子園の感動消費」という問題である。

灼熱の炎天下で長時間、短いスパンでエースピッチャーに投げさせる。
プロ野球だったら選手の将来のため避けるところを、甲子園の選手たちはやってのける。
そして観客はそれに涙する。

しかし、甲子園は春もやっているが 春の甲子園は夏の甲子園のような人気はない。
結局は観客が、高校生たちを酷使していると言えなくもないのだ。

その辺りは砂の栄冠という漫画が詳しい。
ドラゴン桜の作者が高校野球という歪んだ世界をサイエンスしている漫画である。
甲子園という異常空間を通して、人は何に感動するのかを知ることの出来る一風変わった野球漫画だ。

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