去る5月26日、「STAR ISLAND」というお台場の花火大会の様子を偶然品川埠頭から見掛けた。
海の向こうで光る花火というのは本当に風流で、天気もよく気温も暑すぎず、なんだかとても感動した。
花火といえば隅田川が有名だけど、湾岸の花火にも興味を持った。
お台場では、8月11日にも「東京花火大祭〜EDOMODE〜」という花火大会があるようです。
あまりにも綺麗だったので、語りたい。
こんな風に。
いちばん綺麗な花火
「母さん、聞こえてる? 今度あの子と遊びに行くんだ。花火大会に一緒に行こうと思ってる。だからさ、上手くいきますように!」
「なんだ坊主、花火を見に行くのか」
「あんた誰?」
「花火に関しちゃちとうるさいもんよ」
「で、その花火奉行も墓参り?」
「偶然近くを通りかかってな。そこに生えてる菖蒲が綺麗だったもんでついな」
「そうかい」
「で、花火の見方を知りたいんだろ?教えてやるよ」
「おっさんのアドバイスなんか聞きたくねえよ」
「俺が話したいんだよ。まあ付き合え」
「しょうがねえな」
「一番綺麗な花火を見る方法。3つある。そして後のものほど大事だ」
「ほう」
「まずな、酒を飲むんだ」
「なるほどムードを作ることなんだな」
「そうじゃない。朝から飲むんだ」
「はあ?一人で?」
「そうだよ。すると昼あたりで気持ちが悪くなってくる」
「花火どころじゃねーじゃねーか」
「最高の花火は最悪の朝から始まるんだ」
「あとなあ、黙ってたけど、俺はまだ高校生なんだよ」
「おう、そうだったか。まあこれはたいしたことじゃない。次だ。」
「ふん」
「2つ目。何かを終わらせるんだ。これだけじゃわからんか。俺の場合はちょうど前の恋を終わらせたんだよ」
「へ?」
「恋愛じゃなくてもいい。勉強でもいいし、マラソンでもいい。とにかく何かをやりぬき、終わらせるんだ。ま、俺の場合は付き合っていた女と別れたがな。三人と。電話で」
「おいおい、クズじゃねーかよ」
「花火っていうのはな、メタファーなんだよ。ただぼーっと動きを見てるだけじゃない。みんなそこに何かを重ね合わせているんだよ。知らず知らずのうちにな」
「何が一番綺麗な花火だよ。おいおっさん、俺はあんたの武勇伝を聞いてる暇はねえんだよ」
「おい待て待て。行くんじゃない。次が一番重要なんだ。」
「ふん、なんだよ」
「あれは何もない品川埠頭だった」
「やっぱりオッサンの昔話じゃねーか」
「食事を済ませて外に出れば、五月の湿った風に吹かれる。帰路に着く為に海辺に沿って歩く。すると、海の向こう、お台場の方で花火が打ち上がっているのを見た。家族やカップルや、一人で一眼を構える青年たち。いつもは誰もいない埠頭に、ほんのり人がいるのに気付く。花火はすぐ散るから美しい。美しいものは儚いのか。そうじゃない。儚いから美しい。人間だってそうだろ。美人薄命。墓参りをしてるお前ならわかるはずだ」
「まあ・・・わからなくもないけど」
「そうだろう」
「ん? で、重要なことはなんだ?」
「つまりな、綺麗な花火を見る為にいちばん重要なこと。それは『偶然』だ」
「え? 偶然? じゃあダメじゃんか。俺は次のデートで使いてえんだよ。やっぱりオッサンはオッサンだな」
「馬鹿野郎!」
「はあ?」
「お前が一番綺麗な花火を見てどうするんだ。なんだ、まだポカンとした顔をしているな。まだわからんか。つまりな、偶然を装うんだよ」
「・・・・・・なるほど」
「どうだ、最後まで聞いてよかっただろう?」
「そういうことかよ。サンキュー、おっさん」
「おう、うまくやれよ」
「今日ここでおっさんと会えたのも、あの菖蒲? が綺麗だからだもんな。偶然の力、確かに思い知ったよ」
「へ、そこまで言われると逆に嘘くせえや」
「・・・・・・。
母さん、いや、京香。見てるか?
俺はまだこんな形でしかあいつに会ってやれねえよ。
あいつだって、京香だって、俺のことまだ許してないだろ。
今更どんな面下げて父親ですって名乗ればいいのか、俺にはわかんねえ。
けどさ、あの日品川から見たいちばん綺麗な花火、あいつも見れるといいな」