「未来世紀ブラジル」は映画ではない

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イギリスのカルト映画「未来世紀ブラジル」

なぜかこの作品が映画史の1ページとして現在まで残っているが、これは映画ではない。

「この作品の魅力がわからない人間は映画が分かってない」としたり顔で言う映画オタクには申し訳ないが、僕はこれは映画とは認めない。

どこが映画ではないのか。

「管理社会を風刺したなんかカルト的な映画」というのがこの映画に対する一般的なイメージである。

だが、芸術作品にしては描写や表現に乏しく、社会派にしてはメッセージ性やその訴求力に乏しい

ではこの作品は凡作なのか。

否である。

映画という媒体を借りたコント

この作品には一点の価値がある。

それは、これだけ金を掛けて、ロバート・デ・ニーロまで起用して、それでもなお英国式ブラックユーモアをやりきったという点だ。

この作品は金のかかった壮大なコントなのだ。

だがコントと言っても笑顔になるコントではない。

100%純然たるブラックユーモアだ。

皮肉に次ぐ皮肉

映画の序盤は、皮肉皮肉皮肉の応酬でお腹いっぱいになる。

この作品の皮肉ぷりを表現する文章力は僕にはないので是非本編を見てもらいたい。

だいたい架空の白人国家を画いた作品に「Brazil」と名付けるあたりすでに皮肉である(響きの良い邦題も好きだが、その味わいは原題とは大きく異なる)。

オチについて

だから、この作品のオチはテリーギリアムが最初に思いついたアイデアでなければならないのだ。

映画の後半はドラマがあったが、最後の最後、オチでこの作品はブラックユーモアとして帰結する。

このオチは、アメリカで公開される際に改変された。

だが、この作品をカタルシスのあるハッピーエンドにすれば、おそらく映画史には残らなかっただろう。

やっぱりブラックユーモアだ

娯楽作品ではない

娯楽作品として観るには、序盤は正直退屈であるし、何より主人公に魅力がない。

死亡報告書、エレベーター、紙吹雪、整形、天井に空いた穴など、映画の前半に登場した要素が後半バタバタと効果的に使われていく様は美しい。

だがどれもそもそも前半部に登場する必然性が薄く、後半部を盛り上げるための布石に留まっており、伏線と呼ぶには至らない。

社会派作品でもない

この作品を管理社会への警鐘として見ることもできる。

ただそれは「1984」などが先に行ってきたことであり、 この作品が新たに付け加えたメッセージは、2010年代に見ても芯を喰っているとは言い難い。

また表現も観客の芯に食い込んでくるタイプのものではない。

この主人公がどれだけピンチに追い込まれようと、見ている者の恐怖心や絶望を喚起される効果はあまりない。

人間や世界観のリアリティよりも、「ダクト」というモチーフを始めとするブラックユーモアや、度々流れる「Brazil」の効果に重きが置かれている印象だ。

やはりコントだ

「意味不明」「面白さがわからない」と言った意見が生まれるのはこういったところから生まれる。

だが壮大なコントとして見れば全ては繋がってくる。

僕は未来世紀ブラジルは映画ではないと思う。

だがこれを映画だと思う映画通もいる。

そんなギリギリの綱渡りをしている作品なのだ。

だからこそ、未来世紀ブラジルは、映画の限界を目指した作品として、逆説的に映画史の1ページとして残されているのだ。

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モンティパイソンと松本人志の類似性

ところで僕は松本人志監督「大日本人」が結構好きである。

だが世間の評判は、よくて賛否両論というものであった。

大日本人を否定する意見として、「面白くない」の次点で多かったものが、「これは映画ではない」という意見である。

その意味は、おそらく僕が「未来世紀ブラジル」に対して感じたものと同じである。

テリーギリアム/松本人志と、未来世紀ブラジル/大日本人の相似性

ところで、未来世紀ブラジルの監督・テリーギリアムは、元々コメディグループ・モンティパイソンのメンバーである。

そして、お笑い通なら誰でも知っていることであるが、モンティパイソンと松本人志のお笑いは深いところで似通っている。

テリー・ギリアムと松本人志、彼らが映画という媒体を通して描き出したものも、奇しくも似通っていたと僕は思う。

「未来世紀ブラジル」と「大日本人」に本質的な違いはないと思っている。

だから「大日本人」も、再評価される向きがあったように思う。

だが残念なのは、興行成績を度外視したとしても、その後の松本監督の映画は目に見えてクオリティが低下していったことだ。

「本当に面白いものは同時代の大衆には理解してもらえない」ということに、松本人志はどこまでも自覚的であったはずなのだ。

だがその後の映画を見るに、どこかで映画を探求することを諦めてしまったんだと思う。

おそらく大日本人ぐらいのクオリティの映画を松本監督が撮り続けることができていれば、後々再評価される向きはあったんじゃないだろうか。

北野武もコント映画を撮っていた

お笑い出身の映画監督と言えば外せないのは北野武である。

テリーギリアムや松本人志に対して、北野武は紛れもない映画監督である。

深作欣二監督から引き継いだ第一作目「その男、凶暴につき」。

黒澤明・淀川長治が絶賛した第三作目「あの夏、いちばん静かな海。」

そしてこれ以降、ヨーロッパで賞賛され、世界の北野となっていったことは今更語るまでもない。

だが、その間、第二作目「3-4X10月」。

これは映画ではない。

たけし軍団をフル活用した、北野武最後の一大コントだった。

前後が名作であるだけにこの第二作は軽く見られがちではあるが、「ビートたけしの傑作コント」としての価値は十二分にあると思っている。

未来世紀ブラジルの視聴方法

僕は映画はAmazon Prime Videoが安いので利用してweb上で見ているのですが、未来世紀ブラジルは配信されていません。

しぶしぶDVDをレンタルしました。

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